歯学部の男子学生が、実習の休憩時間に
「前田さん、厳しいことを言ってください!」と頭を 下げられた。
感じたことをフィードバックさせてもらったよと返すと。
「居酒屋でバイトしてる自分はお客さんと話すのが好きで、でも、そんな話し方で歯科医になってはいけないと思うんです。自分に自信があるけどコンプレックスがあるんです」
ちょっと軽い感じの今どきの青年だった。
言葉使いも、確かに少し軽いところもあった。
でも、ロールプレイで彼の真っ直ぐさとあたたかさが充分過ぎるほど伝わっていて、こころ掴まれた感じがあった。
だから、彼がそんな風に言ったことに少し驚いた。
「居酒屋でバイトしているあなたも歯科医を目指すあなたもどちらもあなただ。あなたはあなたでいい」彼は黙って頷いた。
その時、何かすーっと風が吹いた気がした。
要らなかったものが、飛んでいったのだろうか。
川崎福祉大学で、遺伝カウンセリングのロールプレイが終わった後、カウンセラーの青年はとても落ち込んでいた。とても自然な気配の彼がロールプレイの中で確かに気負っていた。
フィードバックの後の雑談で彼は言った。
「医療者っぽくない話し方がコンプレックスなんです」
再び話し方に対するコンプレックスという言葉を聞いた。
コンプレックスと言えることは
そんなに簡単なことではないと思う。
話し方にとらわれてしまう。
きっとそこには正解があって、そこに至らないとダメなんだろう。
そして落ち込んでしまうのか。
コンプレックスこそ、人を想えるエネルギーに変わるのだと、私は思う。
話し方よりも、もっと大事なものを
彼らはすでに持っている。
私はすごくそう思う。