竹内として感じたこと その1

「先生から聞いていると思うんですが、麻薬のことどう思われますか?」

いきなりの質問から始まった。

余命6ヶ月と宣告された竹内さんの情報の中に、痛みが激しいがまだ麻薬を拒んでいるとあったからだろう。

主人も癌だった。7年前麻薬で痛みを抑え出してからは意識が朦朧とすることが多くなり、最後の別れまでちゃんと話ができなかった。

この学生に話したいと思った。

それは質問の中に、私を本当に知りたいという学生の想いを感じたからだろう。

でも、まだまだ我慢できるからとその時は濁した。

 

質問の輪郭だけははっきりしているが、学生の手が

私に触れようとしたり、また引っ込めたり動きがぼんやりとぎこちない。

でも、そのぎこちなさに学生の想いをずっと感じていた。

何が不安か?という形式的な質問に

「家の中がむちゃくちゃなこと」と答えた。

「動くと痛いから片付けられないですね」

そう返された時、思わず主人のことを話した。

「ああ、それで麻薬を使いたくないんですね」

その言葉に包まれて私は言葉を失った。

 

ロールプレイが終わって、フェイスシールドを外した彼女は堪えきれないように涙を流した。

「麻薬のこと言って、相手を傷つけたくなくて、それでも、ご主人の麻薬のこと言われて、どう返したらいいか、、」

 

「竹内として感じたことです。相手を傷つけたくないって思ってくれてたんですね。その優しが最初から伝わってました。主人のことを最初からこの学生さんに話したいと思いました。家のこと話した時に片付けられないのはつらいって言ってくれて、私ああわかってもらえてるって嬉しくって、やっと主人のことも言葉にしてました。そうしたら“ああ、それで麻薬を使いたくないんですね”って。こんなに感じてもらえて。手が私に触れようとしたり、引っ込んだりして、ずっと私のこと想いやってくれてる、でも近づいてくれない。そう感じてました。竹内は、麻薬云々はどうでもいいんです。聞いてもらえて本当に嬉しかった。〇〇さんに勇気をもってそばにいて欲しい。それが竹内の気持ちです」

 

「着飾った自分、学生としての自分ではなくて(泣く)、、人と人みたいな、、(泣く)素のままの自分で会って、、患者さんの安心に繋がっていくと思いました(泣く)」

私こそが患者役の竹内と共に癒されて泣けた。

 

学生たちが次の教室に移動する時だった。

ロールプレイをした学生が1人近づいて来てくれた。

「(実習で)癌の患者さんに会うとどう接していいか、、怖かったんです。でも、、頑張れます!」

彼女はまたハンカチで顔をおおって、そして「恥ずかしっ」って言いながら小走りで去って行った。