ロールプレイの中で、その学生の目はずっと笑っていた。
こんなやり取りもあった。
「父が胃がんで亡くなっています」
「脂質の多い物を食べていませんか?」
「ん?、、まあ冷凍食品を扱ってる会社に勤めているので冷凍食品が多いですけど、、」
「ありがとうございます!」
それからも質問に答える度にありがとうございます!と返された。
その学生の気配は明らかに慌てていた。
それでも明るいテンションで話し続けた。
ロールプレイが終わっての本人の感想だ。
「楽しく話した。それが患者さんにはどうだろうと不安があった。脂質の多い食事のことも聞けた。」
なおかつ
「患者さんと会話のキャッチボールができた」
観察学生からも「明るい雰囲気が良かった」
「緊張していない感じがすごいと思った」
そんなポジティブ感が溢れる中、SPのフィードバックの番になった。
その学生に目を向けると、笑っている目に涙が滲んでいた。はっとした。
「、、気配が慌てているのに、なんとか話そうとされるようで、それ以上もう話さなくていいかと感じました」と、フィードバックを終えようとした時には、学生の目からは涙がこぼれ落ちていた。
実習が終わって、SP同士で歓談していると
助手の方が「学生がせっかくのフィードバックを泣いていてちゃんと聞けなかったので、もう一度聞かせてもらえますかと言っています。話してやってもらえますか」と、頭を下げられた。
「もちろんです」と、外に出るとその学生だった。
2人だけで、改めてフィードバックと私の想いを伝える間、学生の目から涙がぼろぼろ落ちていた。
それはきらきら光って見えた。
何度も頷きながら、その学生の目は本当に笑っていた。
あとから聞いた。
自分は人気者で誰とでもそつなく話せる自信があったという。そんな自分がロールプレイが上手く出来なかったことがショックだったらしい。
きらきら光る涙と共に、他人に見られながら肩肘張って頑張ってる余分な力が流れ落ちていったのかもしれない。
肩肘張って生きてきた私も、その学生と一緒に
力が抜けていくようだった。
「いいんだよ、それでいいんだよ」
学生に言いながら、私こそがその言葉をもらった気がする。