正しさを横に置けたら。

「薬は飲みましょう」

「たばこはやめた方がいいです」

「お酒も身体に良くないので減らしましょう」

薬学部の実習では、この言葉をどれほど聞くことだろう。

「わかっていてもやめれんのよねえ」

せめてと思って、弱々しく返した場合も

「そうですよね。わかりますよ。でも、、」

切り返しは早い。

でも、学生たちはそれが正しいと思っている。

医療者の役割は患者さんのために、だめなことは注意してあげて、提案してあげて、なんとかいい方向へ導くことなのだから。と。

 

毎熊先生が、実習の最後に言われた。

「初めて出会った人間にいきなり注意されて、あれはだめ、これはやめなさいと言われたらどう感じますか?」

まさにそうだよなあ。

正しさを横に置けたら、学生たちはどんな風にやり取りをするのだろう。

 

ロールプレイが終わっての感想を女子学生が胸を張って言った。

「以前飲んだ薬ですごい副作用があって、今薬が飲めないという患者さんだったので、薬が飲めているという患者さんに対する提案とは違った。ちゃんと提案ができなかった」

 

フィードバックも終わって、席を立つその瞬間思わずその女子学生に話していた。フィードバックが交わされる間ずっと感じていたことだ。

「提案することが目的だったから、どんな副作用だったか聞けなかったんだよね。だって、確かに聴こうとしてくれたもん」

学生の目に涙が浮かんだ。

 

正しさを横に置けたら、もっと感じていることが

ぐーんと自分に迫ってくるはずだ。

だって、みんな確かに感じているのだから。