直腸癌手術の後、ストーマをつけた患者に
看護学生が会いにくる場面。
その学生は少し身体を揺らしながら目も定まらない。緊張から自分の中でリズムをとっているのだろうか。
患者の私も落ち着かない。そんな中で学生は言った。
「不安だと思います。私はまだ(ストーマを)していないからよくわかりませんが」
患者は、思わず吐き出していた。
「不安だと思いますって何が?癌になって手術を受けて、このストーマだって、なんでこんなことになるんだって。まだストーマしてないとか、何を言ってるんよ!」
ロールプレイが終わって、その学生は最初につぶやくように言った。
「びっくりしました」
ファシリテーターの先生がたずねた。
「びっくりしましたって言ったね。その時の気持ちはどうだった?」しばらく間を置いて続けられた。
「それは自分だけのことだったんじゃない?びっくりしてから、〇〇さんはどんな想いだろうって〇〇さんに向き合おうとした?」
「、、正直なかったです」
「訓練された人なのよ。あなたに反応してここまで出してくれたのよ!」
ずっと固まったようだった、その学生の両目から涙が溢れた。
最後のまとめの時だった。
そのファシリテーターの先生の言葉だ。
私は思わず書きとめて、あぁと声が漏れた。
「今日の実習で、自分のこころとの向き合い方も学んだのではないかと思います。自分のこころを聴く訓練が大事なんです」
「自分が良いと思った関わりをしてみる。患者さんに拒否されたらいったん退いてくれたらいい。だけど試すという勇気を持って欲しい。患者さんと看護師も人と人なんです」
長く看護師を続けてきて、教育にたずさわりたいと思われたと言うその先生は「学生が好きなんです」と休憩時間に話してくださった。
自分の体験を、そしてその体験から生まれてきたたくさんの想いを、学生にそのまま伝えておられる姿。
これこそが教育なんだと、私はたまらなく感動した。