愛しき実習。

「瀬田さん、こんにちは」

最初の呼びかけの時に、名前を呼んでくれたのは、その学生だけだった。

そんなシンプルなことが、ふっとこころをあったかくさせた。

目が前髪で隠れてよく見えないけど、なんとも優しいまなざしが私を見てくれていた。

でも、退院後の栄養指導なので、話すのはどんどん教科書の内容説明みたいな流れになっていった。

ロールプレイを終えての学生の感想は。

「知識が足りてないので説明が上手くできなかった。つまりかけてしまうことが多かった」

瀬田としてのフィードバックで。

「瀬田さんって呼んでもらったのが優しくこころに響きましてね。前髪で隠れるまなざしからもちゃんとあたたかさは伝わっていました。知識が足りてないって言われたけど、知識を与えてくれてるって感じだった。むしろつまりかけるような〇〇さんだからこそ、瀬田はリラックスできた。脱線したいくらいだった。もっと〇〇さんで瀬田と出会って欲しかったな」

フィードバックを受けての学生の感想だ。

「これからも、もっともっと知識をつけるのは当然のことで。今日やってみて勉強だけじゃなくて、なんかやっぱり、自分が相手をしているのは人だなって。そのことをもっと意識したい」

 

次は、退院しても苦いアミノレバンという薬を飲まないといけない志賀さんという患者。

画面に現れたのは、見事な金髪の男子学生だった。

「退院指導いたします〇〇と言います。志賀様でお間違いないでしょうか?」

えっ?なんて丁寧な!

そして、何とかアミノレバンを飲ませようと

脅しもありの、専門用語の羅列が始まった。

「よくわからないよー」と言っても止まらなかった。

ロールプレイを終えての学生の感想は。

「専門用語を押しつけているようで苦しかった」

志賀としてのフィードバックは。

「髪の色が自由な割にきちんと丁寧なやり取りが始まって、驚いた分楽しくなりました。

押しつけているようで苦しかったって、ああ感じてくれてたんだ。志賀も苦しかった。〇〇さんともっと話したかった。もっと自由に」

 

学生たちの悪戦苦闘ぶりは、患者を思えばこそなんだよ。伝わってくるんだよ。

ロールプレイが終わって、やっと普通に息ができ始めたような、その自然さが、本来の自分なんだって。だから、もっと本来の自分を大事にして欲しい。

なんとも愛しい。

私も、ふーっと大きく息をつく。