山や谷が深ければ、人生の景色はより美しい。

岡大医学部2年生の医療面接実習。

大学には赴けたけれど、学生とはオンラインでの面接になった。

大学の設備もどんどん整っている。学生達もオンライン慣れしているのだろう。そんなに大きなアクシデントもなかった。

さて、そんな中での出来事。

 

私は石川さゆりというベタな患者名だった。

画面に私が映り込んで「こんにちは」と言ったすぐ後だった。確か学生の自己紹介もなかった気がする。

紅白歌合戦で見ました」と第一声。

一瞬戸惑うと

「歌われていましたよね。石川さゆりさんですよね?」

「えっ?!か、歌手じゃありませんよー」

慌てる私の隣で、ファシリテーターの松田先生がフォローに入ってくれた。

「あっ、同姓同名ですもんね。顔も似ておられますし」

「あっ、いや、……」

こちらがこんなに慌てているのだけど、画面の学生は普通の表情で返してきた。

「冗談です」

おい!

 

と、別の場面。

画面に学生2人が映る。

1人は優しい眼差しだった。1人は画面がぼやけて表情もよく見えない。

自己紹介の後、今日来院した理由を聞かれてからだった。黙った。2人とも。

慌てる様子もない。しばらくの沈黙の後

こちらから喋った。

「あの、やっとこれたので聞いてもらいたいんですけど、あの、こちらから話したらいいんですか?」沈黙。

しばらくして

「喫煙、飲酒はないですね」

「あの、、、」

3回ほど話しかけた。

何も返ってこない。気配すら変わらない。

2人ともだ。

とうとう、ファシリテーターが止めに入られた。

学生の感想を聞くと

「沈黙が続くけど、医療面接って何をしていいかわからない」

「病院に行っても、話がすぐに終わって薬もらうだけだから。何を聞いていいかわからないし。僕が判断できることもないし」

 

そのセッションが終わると、全体の映像を観ていた学務の人達が走って来てくれた。

「前田さんがあんなに声をかけてくれてるのに。あれはないですよね!」

それが嬉しかった。

 

初めてファシリテーターをしてもらった松田先生。

打ち合わせの時に

「SPさんとして、この石川さゆりのシナリオで何を大事にされているんですか?」と聞いてくれた。そしてファシリテーターとしての自分の目標も話してくれた。

こんなこと初めてだった。

 

実習の中でも

山や谷がある。それが何より実習を豊かなものにしてくれる。