「男の子で頑張ってるんやねえ」と、言うと
「ただ男というだけです」と、まっすぐに返された。その反応が正直で、ちょっと恥ずかしくなった。福山も、それから正直になれた。
もう長くない。その気持ちはごまかせない。
有本くんは、福山の肩を支えながらその事を一緒に感じてくれているようだった。
トイレから戻って、ベッドに寝転んで大きくため息をつくと「しんどいですね」と有本くんが言った。
窓の外を見て
「暑そうじゃね」と言うと
「暑いですよー」と、頷きながら腰をかがめてくれた。
「ビールが美味しい季節じゃね」
「僕あんまり飲めないんですよ。ビールは苦いです笑」
「そうなん?」
「福山さんは好きなんですか?」
「好きなんやけどもう飲めんからな。でもな、入院する前に還暦祝いしてもろうて、主人とちょーっと飲んだんよ」
「いい時間ですね」
福山として、もう長くないこと大事に受け取ってくれていると感じた。
それがSPのフィードバックだ。
ファシリテーターの時本先生がたずねた。
「有本くん、福山さんがご主人とビールを飲んだ話しをした時、いい時間ですねって言ったんだけど、あの時はどんな気持ちだったの?」
「…そのまんまです。そう感じたんです」
「そうかあ。ずっと、福山さんの背景を想像しながら、有本くん関わっていたね」
フィードバックが終わって、拍手している時に
有本くんと目が合った。
「有本さんが有本さんだった」
そう伝えると、有本くんは少し間をおいて
大きく頭を下げた。